September 11, 2010

また殺した。これで10匹目くらいだろうか。正確にはわからない。この部屋に来てから、見かけた奴は全員殺した。朝の蜘蛛は殺すな、夜の蜘蛛は殺せ、に習って、蜘蛛も一匹。

正確に言うと、殺したかどうかはわからない。ティッシュで掴んで、軽く丸めて、ちょっと強めに握って、ゴミ箱にポイ、だ。ティッシュを開いて状態を確認した訳ではないので、もしかするとまだ生きていて、夜の間にティッシュの中から出てくるかもしれない、が、怖いのでそういう想像はしない。

とにかく、部屋の隅に置いてある藤のゴミ箱には、丸まったティッシュが山ほど入っている。ゴミ箱の周りにも、投げて、外れたティッシュ玉がいくつか転がっている。


温泉に来ている。ひとり。福島の山奥の、むかーしからあるというふるーい温泉宿の、旧館。本館は満室だった。どうもここは秘境温泉宿ということで知られているらしい。
八帖の和室に、机と座布団と、木製の鏡台と、衣紋掛け。あと三菱の扇風機とパナソニックの14インチ位のブラウン管テレビ。
温泉は三カ所。部屋の障子を開けて廊下に


…まただ。
二匹ヤった羽根アリだと思う。木の柱の中にたくさん住みついているのだろうか。

温泉は三カ所。部屋の障子を開けて廊下に出て、少し行って、階段を降りてまた少し行くとひとつ。
そこから100


…今度はでかい。ポトって畳に落ちて来た。なんだよ、なんなんだよ。何ムシだよ。泣きたいよ。飛ぶし。
ティッシュで潰すのは無理だと判断して空き缶の中に閉じ込めた。カタコトいっている…。しかし私にはこれ以上どうすることもできません。デカい虫ごめん。

そこから100段くらいの木の階段を下って行くと、ふたつめ。
ドアから外に出て、鉄の階段を降り、石の階段を降りると、みっつめ。これは露天風呂。

ちなみに、婦人風呂がさらにもう二つあるらしい。先の三つの風呂は、男湯という訳ではないのだそうだが、実質男湯だ。風呂についてはまた別途書こう。今は虫の話だ。


100万種類の虫が、多分100万匹ずつ生息している。僕はその中で寝なければいけない。ひとりで。信じられない。いや、嫌だという訳ではない。覚悟はしていたんだが、やはり怖い。

節足動物は人間にとって脅威だ。彼らは僕らとは全く違う進化をこれまで遂げてきていて、完全に独自だ。僕らとは言葉も違えば考え方も違う。何をするかわからない。お互い異質な存在で、相入れない関係なのだ。しかし、今日は彼らとともに寝なければいけない。まだ見知らぬ外国人のほうが、いや、まあ同じくらいかもしれないが。


さっき、二つ目の風呂に入ろうかとおもって、木の階段を降りようとしたら、まあ大変。暗い階段の天井から下がっている裸電球に蛾がたくさん。パタパタ、パタパタ。そして階段の床には、なぜか死にそうになってる蛾がまたたくさん、床の上でパタパタ、パタパタ。

あーもうだめ、無理ですごめんなさい、と誰にとでもなく謝りつつ引き返して、一つ目の風呂に入ってきたのです。こんなことなら虫がいない時期に来るんだったよ。

なお、仏教の教えによれば、たとえ節足動物であっても、殺生をした場合は必ず懺悔をしなければいけないのだそうだ。そうしないと地獄へ落ちてしまう、とのこと。皆さんもお気をつけくださいませ。今日は懺悔してもう寝ますおやすみなさいごめんなさい。